エイリアン的生き物。ムモンオオハナノミの♂と♀
「カリカリ、カリカリ・・・・」
机においてあるフィルムケースから音がしている。
この冬にとったエントツドロバチOranchistrocerus drewseniの巣を入れておいたものだ。
最近はエントツドロバチというわかりやすい名前で呼ばれることが多いが、既存の図鑑類にはオオカバフスジドロバチ(またはオオカバフドロバチ)と書かれている種類だ。
このハチは泥をこねていくつかの部屋を作り、その入口に長い煙突状の通路をつくる習性がある。蛾のいもむしが獲物で、麻酔したいもむしを貯蔵し、卵を産みつけて部屋を閉じる。煙突状の出入り口は、作成中の部屋のみにあり、完成すると煙突は取り壊して部屋の上塗りに再利用される。
今回とってきた巣には5部屋あり、そのうち2部屋だけハチの成熟幼虫になっていたのを確認していたのだが、、、、、
中をのぞくと意外なものが出てきた。
ムモンオオハナノミMacrosiagon nasutumの♂である。
甲虫の仲間で、ツチハンミョウ類と同じく「綱渡り」的な寄生生活を送るまれな昆虫である。ムモンオオハナノミのお母さんは、たくさんの卵を産み(飼育して数えた人によると2053粒! 岩田久二雄著 自然観察者の手記2より引用)、孵化した幼虫は、通りかかった虫にお構いなしにとりついて、偶然、寄生相手のハチにとりついた幼虫だけが、寄生生活に入れるというアブナイ人生を送っている。
よくこんな生活設計で絶滅してしまわないものだと思う。
で、蜂の巣に移った幼虫は部屋で待機し、ハチの幼虫が成長してパツンパツンにふくれたときにかみついて体内に潜るそうだ。逆のこの時期を逃すと寄生できないそうだ。冬を迎える時期のものはこのまま体内寄生しており、春になると、食い破ってハチの幼虫を食べ尽くし、蛹化、羽化する。
ここら辺の生活ぶりについては、前述の岩田久二雄著 自然観察者の手記2に詳しく書いてある。余談ですが、虫好きの人に、「日本のファーブルといえば?」と聞くと、十中八九「岩田久二雄先生!」というほどスゴイ人です。
さて、この羽化してきたムモンオオハナノミをみると、なんとなく横顔がエイリアンのようである。生活ぶりをあらわしているようでおもしろい。
この♂くんは、数少ない♀のニオイをかぎ分けるためか、触角は羽毛のように広がり、たくさんの空気を受ける構造になっている。
実はムモンオオハナノミに出会ったのは、これが2度目で、15年ほど前の1993年の春にも同じようにエントツドロバチの巣から出てきたのをみている。そのときのものと比べて初めて♂♀の区別がつきました。
以前見つけたものは触角が櫛歯状で、今回のものは両櫛歯状というか羽毛状。二つ並べて初めて♂♀の違いを知りました。
写真はエントツドロバチの巣、左上はエントツドロバチの成熟幼虫(実は寄生されていた)、右上は羽化してきたムモンオオハナノミの♂(おしっこ=老廃物でおなかがまだふくれてます)、右下はムモンオオハナノミの♂と♀の頭部です。♀は背面から、♂は正面からの画像ですが、触角の違いがわかるかと思います。
追記
宇治虫というブログを運営されているaile21様からコメントをいただきました。
偶然にも、同じようにムモンオオハナノミを観察されていたそうです。
あちらでは、まさに寄生中の幼虫なども観察されていて、詳細な写真も見ることができます。
興味のある方は一度訪問されては?
(でも、ちょっとキモイかも、、、、)