種を分ける錠と鍵(ホンのさわり)
まあ、ちょっと虫の本に詳しい方なら、このタイトルが
「オサムシを分ける錠と鍵」という本からのまるパクリなのは、
ご想像の通り。
昔買って読みましたが、要は♂と♀の交尾器の形が種類ごとに
対応していて、錠と鍵の関係に似ている。と言う話です。
ある昆虫の種類がその近縁種と同時期・同所的に分布している場合、
間違って交尾しないような方法をそれぞれ持っていると考えられます。
交尾器の形が違うとうまく交尾が出来なくて雑種が出来にくくなりますが、
近縁種間で雑種が出来にくいことを「生殖隔離」があると言います。
その方法もイロイロで、物理的に交尾器の形で生殖隔離をする種類。
種特有の性フェロモンで化学的に生殖隔離するもの。
コオロギなんかは鳴き声で♀を呼び寄せて交尾しますが、
種類ごとにメスが反応する鳴き声が違いますから、
音で生殖隔離していると言えるでしょう。
蛾は♀の放出する性フェロモンで♂を呼び寄せて交尾しますが、
近縁種の性フェロモンはよく似ているので、
交尾器の形が種類ごとに変わっていることが多いです。
以上前置き。
土日は風が強かった。
飛ばされそうになりながら、樹にしがみついていた蛾。
ニッコウトガリバ Epipsestis nikkoensis
11月頃から出現し12月まで見られるが、12月2週目ともなると、
擦れてしまってちょっとみすぼらしい。
ニッコウトガリバ正面
本来ならもっとモフモフで両肩がツノのように角張って見える。
前胸の鱗粉が赤褐色なのが、他種と区別する外見上の特徴。
ニッコウトガリバの♂交尾器。
ファルス
先端がカギ状に硬化している。
先端側から見ると、
複雑なカーブ。
こちらは11月に別な場所で採ったニッコウトガリバの♀の交尾器。
貯精嚢には不思議な形の硬化部。シグヌム(signum)と呼ばれる。
交尾口にもいびつな形の硬化したくぼみがある。(下円内拡大)
この形、ちょうど♂のファルスの先端と対応しているように見える。
おそらく交尾の際、この部分を噛み合わせてから内袋を反転し、
貯精嚢に精子を送り込むのだろう。
ところで、この擦れたニッコウトガリバ♂の内袋のコルヌティ
オロシ金に少しトゲがついたような形状だが、
11月に採集した新しい個体のコルヌティはこんな感じ。トゲトゲしい。
思うに交尾後に♀の細い交尾管に残していくのじゃないか、と想像する。
後から交尾しようとする♂の邪魔をするためだろうと思う。
同定のキモになることの多いコルヌティが取れやすいというのは困りもの、
記載と違うからといって簡単に新種ハケーン!!とか騒がないようにしなくちゃネ。
ではまた