旧「いもむしうんちは雨の音」置き場

ブロガリサービス終了にともない、「いもむしうんちは雨の音」をこちらに保存しました。

小蛾の展翅

ちょいと質問がありましたので、私の展翅のやり方を書いておきます。

はじめに断っておきますが、私の方法は、昼間のお散歩で採った少量の蛾を展翅する方法なので、夜間の灯火採集で大量に採集した場合にはメンドクサくってやってられないと思います。

基本、保育社の原色日本蛾類図鑑(下)の巻末にある小蛾類の展翅法に準じたやり方です。


小蛾類は体が小さい分、死ぬとすぐに乾燥がはじまり、触角などが簡単に折れてしまいます。

そこで私の場合、採集した蛾は生かしたままサンプルケースに入れて、
暴れて擦れないように保冷剤入り容器に保存して持ち帰ります。

帰ったら展翅する訳ですが、まず、生きているので毒ビンに入れて半殺しにします。この半殺しは重要で、完全に死ぬと硬直がはじまって翅を拡げられなくなってしまいます。(もし死後硬直してしまったら濡らした綿を入れたタッパーなどに入れて乾燥しないように半日ほど保管すれば硬直が解けて展翅し易くなります。加湿しすぎないように注意。翅が濡れるとくっついて鱗粉や縁毛が禿げます。)

で、胸の中央に微針と言う小蛾類専用の細くて短い昆虫針を垂直に刺します。

ここで蘇生して蛾が動きだすことがありますが、慌てず騒がず毒ビンのコルクに刺してまた半殺しにします。

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次に展翅板に刺すわけですが、小蛾用の展翅板については以前記事にしたのでそちらを参照してください。
記事はコチラ→「ミクロの展翅板・・・旅行バージョン

最近ではホームセンターなどで手に入るスチレンボード(デコパネ)を材料にした簡便な展翅板を使う方法もあります。

で、展翅の続き
モデル(犠牲者)は土曜日に採ったスガ科の1種。

展翅板の溝に蛾をまっすぐに刺します。

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ここで後ろから「フッ」と息を吹き付けると、翅がパッとうまく拡がって後は翅を押さえるだけ、というラッキーな状態になることもあります。
が、そんなことは滅多にないので、柄付き針で翅を持ち上げてある程度拡げます。

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針で触角を上げて止めます。

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翅押さえ針で翅を軽く押さえます。

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押さえ加減は虫の状態や種類で適当に加減します。
押さえすぎると鱗粉が線状に取れてしまうので注意。
経験で覚えて下さい。
触角を止めた針は翅押さえ針がずれて溝にペチッと落ちたりしないため、の目的もあります。

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柄付き針を前翅の下に差し込んで持ち上げ、カッコイイ位置まで拡げます。

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このとき後翅は前翅と連結器でつながっているので、つられて拡がってきます。

もし、後翅が拡がってこないときは、前翅は一度に拡げずに後翅も少しずつ拡げ、交代に拡げていくといいでしょう。

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そうしないと、後翅が前翅の上に被さったブサイクな標本ができあがります。

柄付き針で翅の下から持ち上げるように縁毛を整えます。

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小蛾の場合、翅の縁毛が占める割合が大きいので縁毛の拡がり方も標本の見映えに影響します。

カッチョよく拡がったところで、短冊に切ったパラフィン紙などで
翅と触角全体を2本の針で押さえます。

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2本目の針を刺すときは斜めに刺して傾けながら刺していくとパラフィン紙がたるむことなく翅を押さえることが出来ます。

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ここで翅押さえ針を抜いて、反対側の翅も同様に拡げます。

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一丁上がり。

このままだと虫が蘇生して暴れ、触角は切れるは翅はボロボロになるわの大惨事なので、酢酸エチルを浸したワタと共にタッパーなどに展翅板ごと入れておきます。
長く入れすぎると腹部から油が染み出し易くなるので、適宜取り出して下さい。

標本は結局、数をこなさないと上手にならないので、私なんかが学生時分には農場のサツマイモに大発生していたイモキバガなんかで練習したものです。

また相手が小さいので、チョウや大蛾類と違って柄付き針が翅のどの部分に当たっているのかなんて肉眼では判りません。
出来れば、実体顕微鏡の下で、柄付き針をこうやって動かせばこんなことになっちゃう。っていうのを確認しながら作業するのが上達の早道でしょう。
柄付き針の太さや、針を曲げて使った場合、とかいろいろ試すと効率も上がると思います。
針先も尖らせすぎると翅に穴がすぐあくし、丸くしすぎると引っかからないし、なかなか奥が深い世界かも?

私の展翅用柄付き針の先はこんな感じ。

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材料:使用済み割り箸・ボンド・糸・シガ微針

ではまた

※翅押さえ針については、次の記事を書きました。
翅押さえ針(はねおさえばり)とは