イラガの繭を巡る2・3の生き物
葉っぱを落とした小枝に目立つ丸い繭。
ご存じ イラガ Monema flavescensの繭。
先日こんなイラガの繭を見つけた。
チカラワザで無理矢理に壊したような繭。
細い枝先でこういう事をするのは、
ヤマガラなどの器用な小鳥の仕業だそうだ。
お散歩コースでもいくつか見つかる。
イラガが普通に羽化するときは、繭の頂部を丸い蓋を開けるように出てくる。
そこで、この壊されたイラガの繭を内側から見てみた。
あらかじめ薄い部分がありますね(青い点線)。
あと、黄色矢印のところに小さな出っ張りがありますが、
これはイラガセイボウという寄生蜂が産卵したあと。
この繭、試しにピンセットで内側から押してみると、
キレイに丸い蓋が開いた。
良くできてますね。
イラガセイボウ Praestochrysis shanghaiensis
タマムシのようなきれいな蜂である。
イラガセイボウはイラガの繭を齧って小さな穴を開け、そこから産卵する。
その際、齧りくずは脇に貯めておいて、産卵後にそれを使って封をするそうだ。
産卵口は放射状の囓り痕があるので、
イラガセイボウの寄生した繭はすぐ判る。
イラガセイボウの産卵痕
先ほどの繭はイラガにイラガセイボウが寄生したけれども、
さらに小鳥に食べられてしまった、と言うことなのだろう。
イラガセイボウが繭から脱出するときは、
イラガの羽化口とは関係なく、自力で齧って出てくる。
自分が出られるだけの丸い穴を開けるので、
イラガセイボウが出たあとの繭というのも判りやすい。
こんなの
さらにイラガには寄生バエも寄生する。
イラガには
イラムシヤドリバエChaetexorista eutachinoides
学名はChaetexorista sp.と特定されていない文献もあり。
が寄生するが、他にも数種の寄生バエの記録があるようで、
同定には専門家の助けがいるようだ。
以前、イラガの繭から出てきた寄生バエ。
イラムシヤドリバエと思うのだが、特定は避けておく。
文献の持ち合わせがないので私には判らない。
ハエにはハチのような大顎もないし、踏ん張る足も細いしで、
イラガの繭のような固い繭からは出られないようにも思うが、
ハエの場合は額嚢という器官を使って、イラガが用意した羽化口を利用して出てくる。
ヤドリバエが出たあとのイラガの繭。
囲蛹殻の欠片が見えなければ普通にイラガが羽化したのと変わらない。
内側から押す分には比較的小さな力でも開くようで、
ハエのような非力な虫でも大丈夫のようだ。
額嚢は、成虫が羽化時に囲蛹殻などから脱出するために使う風船状の袋で、
体液を出し入れして、額嚢を膨らましたり縮めたりしながら脱出する。
寄生バエの顔
半月瘤 lunule・・・・触角上部にあるコブ
額嚢溝 ptilinal fissure(額線 frontal suture)
額嚢溝とは、額嚢ptilinumが羽化後に頭蓋内に引き込まれた後の溝。
額嚢は羽化時に使ったあとは頭部に引き込まれ2度と出てこない。
額嚢に関するちょっと変わった利用法。
久米島などで行われたウリミバエの根絶事業では、
野外で採取した個体から放飼個体と野外個体を区別するために、
あらかじめ蛹の容器に蛍光物質の粉末をまぶしておいて、
額嚢に付着させる方法をとったそうだ。
(採取した個体の頭部をつぶしてブラックライトで照らすと、放飼個体は光る。)
(なぜ根絶事業なのにハエを放すの?と言う方は「放射線不妊虫放飼法」で検索してね。)
(額嚢ってどんなん?と言う方は、youtubeなどの動画サイトで
「diptera ptilinum」と検索したら気色悪い動画を見ることができます。オススメしません~)
ではまた